デジタルグリッドとは
はじめに
阿部力也教授は東京大学において私たちに影響を与えつつあるエネルギー安全保障や地球温暖化、それに難解な諸問題について解決策を追求しています。 大学でのこの研究の前に、阿部教授は電源開発株式会社において研究者として、またエンジニアとして30年を過ごしてきました。最近10年にわたっては、阿部博士はインターネットのデザインに優れた点があることに注目しています。ノードにアドレスを付けられる点、故障に強く相互接続性がある点、それにネット ワークにおける情報のトレーサビリティがある点です。阿部教授は、データをネットワーク上でルーティングするのと同様に、電力をルーティングするアイデアを創造し発展させて参りました。低価格な電力スイッチングデバイスの出現とともに、そのコストは実現可能なレベルに達しつつあります。そして今、阿部教授はデジタルグリッドのコンセプトを生み出しました。
今日、エネルギーに関する話題はほとんどが消極的なものです。私たちはエネルギー消費を抑えようとしています。21世紀において、先進国でも第三世界でもエネルギー消費の増加が必要とされているにもかかわらずです。エネルギー消費を抑えることのみの限らず、エネルギーの利用が複雑化することも悩ましいものとなりつつあります。利用時間別料金体系やデマンドレス ポンスを例にとると、人々は日常生活で消費するエネルギーに日々の注意が必要となり、今でも複雑で情報に翻弄される状況をさらに混み入った世界へと導くのです。実は、私たちが全世界で利用している、あるいは予測している以上の豊富な再生可能エネルギーが存在するのです。デジタルグリッドを利用すれば、エネ ルギーの豊富な世界、新しい利用方法で使える世界を描くことができるのです。そして、限られた水資源の問題を解決するようにエネルギー問題を解決します。 そのような世界を私たちは待ち望んでいます。そしてそのような世界を実現するデジタルグリッドのデザインを提案しました。豊富なエネルギーのある未来を想像してみてください。現在の送電網では実現できない新しい電力の利用方法を予想してみてください。デジタルグリッド のコンセプトはここにあります。未来の送電網は再生可能エネルギーを最適に必要に応じて利用できる世界です。私たちは、もはや環境にダメージを与える先駆 者ではないのです。
米国エネルギー省(DOE)によると、160km四方のネバダ州の土地で全米の電力需要の800ギガワットが補えるのです。それは平均的な効率(10%)の商用太陽電池モジュールで可能です( DOEレポート参照 )。 十分なエネルギーストレージがあれば、太陽エネルギーは世界で必要なエネルギーを100%生み出すことができます。環境保護の名目でエネルギー利用を制限するよりも、太陽光発電による電力網を使って豊富なエネルギーを供給し、新しいアプリケーションを創造し、私たちに大きな利益をもたらすのです。豊富なエネルギーは水資源供給の問題や食糧生産、それに液体燃料合成などの問題も解決します。
エネルギー問題を解決するためのイニシャティブの多くはエネルギー効率化やエネルギーの保存について述べています。例えば、スマートグリッドやデマンドレスポンスはエネルギー利用の効率化を目指しています。けれども、下の図が示すようにエネルギー供給の増加は世界的な人口増加を反映しています。効率 化の推進は大切ですが、エネルギー需要は人口増加が止まらない限り持続するという根本問題を解決するわけではありません。 地球温暖化は世界を壊滅させる大きな問題であると誰もが認識しています。再生可能エネルギーは豊富に存在し、化石燃料の代わりとしてこの問題の解決になりえると思います。この変化にはエネルギーストレージとデジタルグリッドが欠かせません。
米国エネルギー省によると、米国南西部の160Km四方の土地で今日の全米電力需要のすべてが補えるのです。そのような太陽光プラントは、もちろんただ一か所に集中させる必要はありませんが、私たちのエネルギー需要を示す太陽光エネルギーの大きさを地図に表してみました。エネルギー需要のかなりの割合を太陽光で補うにはストレージが必要となります。
太陽光や風力のような再生可能エネルギーは総合すると日常のエネルギー供給には十分です。けれども、天候条件や日中の変化により一時的にエネルギー供給が需要を満たさない場合があります。そこで、一日のエネルギー需要の大部分を再生可能エネルギーで補うとしたら、エネルギーストレージが必要となります。エネルギーストレージは様々なテクノロジーに基づいたものが存在します。最も広く利用されているテクノロジーは揚水発電です。揚水発電プラントの多くは貯水池が電力源です。電力網の余剰電力を使って高所の貯水池に揚水するのです。揚水は需要の少ない夜間に行われ、日中のエネルギー需要の多い時間帯に 再度発電に利用されます。圧縮空気はもうひとつのエネルギーストレージです。空気は圧縮されて地上のタンクに貯蔵されたり、地下の洞窟などに貯蔵されます。大型の太陽光発電プラントは火力発電と同様です。大きな可動式の鏡を使って太陽のエネルギーを集積し、液体を熱し、その熱でタービンを回して発電します。熱源型太陽光プラントは大きなタンクを持ち、そこに熱した液体を保持します。そして日没とともに発電を行います。
さらには、電気自動車の発達とともに性能の向上とコスト削減の進んでいるバッテリーテクノロジーがあります。こういった各種のエネルギーストレージが数多く使われることで、コストは劇的に安くなると期待されています。左の図は太陽電池モジュール業界から提供された価格の下降を対数グラフに示したものです。製造数が増えると価格は下がります。1976年からの30年間でその比率は100対1となります。エネルギーストレージも、製造が進んでギガワットのスケールになると同じように価格が下がると期待されています。ここで、エネルギーストレージはデジタルグリッドに必須ではない点は忘れないでください。デジタルグリッドの利点の多くはエネルギーストレージ無しでも実現できるのです。発電のすべてが再生可能エネルギーになった場合にはストレージは必要です。デジタルグリッドは再生可能エネルギーが30%から100%に至って導入された場合に電力網を制御するソリューションなのです。
現状の送電線の問題点
従来の送電網にはいくつかの問題があります。例えば、
- 広域送電網はカスケード状の故障の影響を受けやすい:送電網は複雑な相互接続とともに開発され拡張されています。その理由は、相互接続により冗長性と信頼性の向上を図っているからです。しかし、実際には広域にわたる故障のリスクも増えていきます。どのような不均衡でも拡大しつつある領域に伝搬していくからです。
- 再生可能エネルギーが30%を超えると送電網の安定性は維持できない: 多くの地域では再生可能エネルギーを20%から30%は要求していますが、多くの専門家は風力や太陽光発電が大きく変化する状況では電圧および周波数の安定性を維持できなくなると考えています。
- 送電網の容量は多くの地区で限界に近く、送電線の増設が必要: 新しい送電線による費用と環境への影響は相当なものであり、それでもカリフォルニア州やテキサス州では唯一の選択肢として計画が進んでいます。しかし、この送電線の増設は安定性と信頼性の問題を先延ばしするのみです。信頼性対策を例にとると、送電設備は重複して設置されることもあり、また故障時には容量を 抑えて使用されます。高額な設備を計画以下で利用することは浪費です。信頼性を上げるために代替ルートを施設するなら、インターネットでは当たり前のよう な網型の冗長性を設けるべきで、利用しきれない設備は必要とはなりません。
- 広域送電網は山や湖を避けるので効率の悪いエネルギーの流れを生む: 地理的に回り道を余儀なくされる送電網はオームの法則に逆らうことはできず、伝送効率の悪化を招きます。
- エネルギーの流れは見ることも追いかけることもできない:送電網の何百万もの場所でのエネルギーフローの出入りをトレースすることはできません。私が地球にやさしいエネルギーを使っているなど、誰に分かるのでしょうか。流れをトレースできないとすると、その支払いも難しいものになります。
今日のエネルギー伝送網は大陸に広がる相互に絡み合った送電網から構成されています。この絡み合いは冗長性に基づいた信頼性のたまものです。しかし一方、この絡み合いが広域にわたる故障のリスクを増大させるのです。どこかの不均衡が瞬時に広域に伝染するのです。衛星写真は2003年の送電網故障を示していま す。5千万の人々に影響を与え、オハイオ州からニューヨーク州を暗黒で覆っています。この大停電はたったひとつの送電線の故障から始まっています。そしてまたたく間に広範囲に広がりました。広域にわたる同期系の電力システムは大規模な故障の恐れがあるのです。風力や太陽光発電のような気まぐれな発電は故障の原因となる擾乱の原因と成り得ます。風力や太陽光発電が進むと、送電網は同じように連鎖的な故障を引き起こす恐れが増してきます。電力業界はこのような 問題に気が付き、不安を募らせています。IEEE Power and Energyの2010年9月10月発行の3つの論文では、送電網の再生可能エネルギーの変動に関する懸念事項を示しています。デジタルグリッドは故障の発生を最初の地域内に封じ込めます。そして故障の連鎖を防ぐのです。
米国では多くの州で再生可能エネルギーの目標を10%から30%に定めています。欧州では再生可能エネルギー源から20%のエネルギー供給を目標としています。日本では2030年までに53GWの太陽光(PV)発電を目標にかかげています。ピーク時需要の25%以上になります。英国では2020年までに40GWの風力発電を利用する計画で、そのために送電網に100億ドルから120億ドルの投資を必要としています。
地図は米国DOEのNational Renewable Energy Resources Labで作成されたものですが、米国内での風力発電の可能性を表しています。風エネルギーの発生個所はエネルギー消費に準じた人口密度に比例はしません。よって多くの新しい送電線が提案されています。図では緑の線で示されています。私たちはデジタルグリッドでグリッド(送電網)のセグメント化を提案しています。そして各々のグリッドにはエネルギーストレージを設置してエネルギーの独立化を図ります。そして必要な時だけエネルギーのグリッド間伝送を行います。
Eric Lernerが示すように、電力は発生から消費まで最短ルートを通るわけではありません。他のシステムを使って並行して送られるわけでもありません(右上)。送電網が広範囲に渡って広がると、山あり、川あり、湖ありで、回り道をします。1ギガワットにおよぶ電力が障害物を回り込むわけです。私たち消費者のもとに届かないその流れは送電線の能力を無駄に使用するのです。上図の例はエネルギーの浪費を、下図の例は送電線容量の浪費を示しています。デジタルグリッドはエネルギーの流れを制御する機能を提供します。そして、この浪費を無くします。 "What's Wrong with the Grid?", Eric J. Lerner, The Industrial Physicist, Oct/Nov. 2003
送電網制御にかかわる問題に対するデジタルグリッドのソリューションは、グリッド(送電網)を「セル」と呼ばれるセグメントに分割し、セル内で自己解決を図り、セル間ではスケジュールされ制御されたエネルギー移動を行います。このセグメント化は段階的に行うことができ、従来の送電線を使用可能で、そのコストは現在の送電網アップグレードの計画を超えることはありません。もちろん、新たに高圧直流送電線を設置する必要もありません。デジタルグリッドなら故障は元のセルから拡散することはありません。つまりグリッドの信頼性が向上するのです。右の地図ではこのコンセプトを、三つのセルが国内電力網の中に設置された日本での例として示しています。日本ではセルは島々の間を結ぶために、また異なる周波数の地域を結ぶために作られました。そして従来と同様の信頼性を維持しています。
技術仕様
送電網の問題に取り組むために、新しいデジタルグリッドのシステムが提案されています。広域の同期系送電網をセルとよばれる中小規模に分割し、非同期的に接続して電力の融通を制御します。非同期に制御するとは電力を融通する新しい方法です。それは、広域の伝送網を分割し非同期のAC送電網(サブグリッド)を構築して電力を交換するこ とです。サブグリッドは電力セミコンダクター(IGBT)を使ったマルチレッグのAC/DC/AC変換と、それに伴う通信機能で構築されます。この装置は デジタルグリッドルーター(DGR)と呼んでいます。
その他にも多くの特徴があります。
- それぞれのセルは位相も周波数も非同期です。そして各セルは電力コンバーターと連動した電送線からなるDGRで接続されます。そして、電力は任意のセル間で、電力コンバーターにより、指定されたアドレスに基づき、直接的に送受信されるのです。
- セル内には同期システムがあり、各同期システムはデジタルグリッドコントローラ(DGC)と呼ばれる電力装置の制御デバイスがあります。DGCは情報交換に使用され、その結果、発電機やストレージデバイスといった電力装置を制御します。
- DGRやDGCにはそれぞれCPUとメモリーとネットワーク通信機能が存在し、重複しないIPアドレスが与えられます。そしてインターネットと同様にIPプロトコルで通信を行います。
- 通信は電力の送電線が使用可能です。つまり電力と情報を同一のラインで利用できます。もちろん、広域なネットワークにおいても同様に使用できるのです。
- DGRは二種類の端子を持つタイプがあります。電力変換を行うものと行わないものです。端子間の接続は端子の組み合わせにより電力交換の有無があります。これは、電力の二重変換を防ぐためです。
しかし、デジタルグリッドはより小さなセグメントをサポートし、直接接続がされていないセル間を相手先を指定して電力と情報の交換ができます。デジタルグリッドはグリッドの新しいアーキテクチャです。Tres-Amigasのようなシングルポイントのソリューションではありません。再生可能エネルギーが広範囲に導入されるために、各セルは予測はずれの需要に対応するために前倒しの電力投入に対応できなければなりません。デジタルグリッドの普及の次のステージではエネルギーストレージが欠かせません。
各セルに適切なエネルギーストレージが備わっていれば、秒単位で発電電力と需要を正確にマッチさせるという従来からの制約から解放されます。既存のグリッドでは、製造された時のエネルギーの価値が要求された時と同一であり、それが当たり前のことでした。電力は時に依存する価値を持つものでした。
私たちのデジタルグリッドはエネルギーの時への依存という制約を開放し、真のエネルギー売買価格を可能とします。
インターネット型通信機能を持ったコンピュータ制御によるマルチレッグ AC/DC/AC コンバータ。デジタルグリッドルーターは、ネットワークルーターのようにコンピュータ制御のルーターです。ネットワークルーターのようにグリッドのどの場所からもアドレスできます。既存のACラインを使ってサブグリッドのセル同士を接続します。各セルは内部的には同期で他のセルとは非同期です。他のセルとのエネルギーの交換は事前に計画されたセルフコーディネイトに基づいています。セルとセルの間は周波数調整も可能です。AC/DC変換やDC/AC変換はIGBT素子を使います。外部セルとの接続は複数の「端子」で行います。
デジタルグリッドコントローラ(DGC)は分散したインテリジェントなネットワークで、アドレス指定可能なデバイスです。発電機やストレージデバイ スといった能動的なグリッドエレメントと連携しています。DGCはエネルギー転送要求を発生し、エネルギー転送の開始と終了を行い、エネルギー転送プロトコルを担い、セルの内部で能動的な各エレメントに自律的な動作を可能にします。以下の図は自律的なセルのグループを示しています。各セルは複数のデジタルグリッドコントローラがあり、他のセルとはデジタルグリッドルーターでつながっています。
デジタルグリッドではエネルギーの流れを発信地のセルや目的地のセルとは切り離して電送します。「デジタルグリッドルーター」によりルーティングされるのです。デジタルグリッドの重要な特徴は電力と情報が一緒に電送されることです。だから、より堅牢なアーキテクチャとなります。電力とともにエンコー ドされた情報はその他のキーとなる情報とともに発信地と目的地をはっきりと認識します。
図では4つのセルがあり、それぞれはデジタルグリッドルーターと電送ラインでつながっています。各電送ラインは2地点接続です。この図は電力交換に 二つのルートが可能です。緑の線はセル #1からセル#3への直接接続です。赤い線は代替ルートで、セル#1から#2へ、そして#3へとつながっていま す。
あるセルが電力交換を要求している例を示します。入札に成功した例です。
最初に電力要 求をブロードキャストします。電力要求には電力の量(kWh単位)や、いつ必要か、要望価格、その他地球にやさしいといった品質などの応札情報が含まれます。ブロードキャストされた条件に基づいて電力を供給可能なセルは要求元のセルに応札します。要求元のセルは自己の条件に合わせてベストの応札を選択し、応札元に了承レスポンスを返します。指定された時間に電力は要求したセルに電送されます。デジタルグリッドの特徴は、電送された電力は情報によってタグ付けされており、その情報には取引情報、送信元情報、受信先情報、それに地球にやさしいグリーンクレジットやその他のメタ情報があります。
DGRとDGCのエネルギー取引は他からの要求により起動されます。各DGRとDGCはその存在場所のローカルポリシーやアルゴリズムとルール、必要に応じた電力電送の開始などの条件に基づき、自発的に動作します。エネルギーフローは組込み計量装置によってモニターされ、予約情報、時刻、販売元、購入先、価格、エネルギーソース、エネルギー量などとともに記録されます。これらの情報は、あたかも日常の金銭入出を記録した通帳のようにデータベースに記録されます。これにより地球にやさしいグリーンエネルギーの確認を行ったり、カーボンクレジットやサードパーティのエネルギー供給状況の確認を行うことができます。
導入するメリット
デジタルグリッドの最も明確な利点は安定性と冗長性です。電力はあるラインに故障が発生すると別のラインを使って確保することができます。セルの間にはいくつもの道があるからです。第一の道とそのバックアップといった限定したものではありません。理論的にはN個のセルにはNの2乗に比例する接続パスがあります。これにより、広域のグリッドは大きな故障でも堅牢性があります。この堅牢性はインターネットの安定性と冗長性と同様です。
DGRはアドレスとルーティングを使って目的地に電力を伝送します。エネルギーは発電源、配信ルート、ストレージデバイス(存在するなら)、それに最終ユーザー(エネルギー消費先)といった認証情報がタグ付されています。デジタルグリッドはエネルギーストレージの価値を劇的に向上し、新しいエネルギー交易ビジネスのプラットフォームを設立する可能性があります。自由な商取引市場の仕組みは新しいシステムへの投資を加速します。エネルギーフローにタグ付けを行い、エネルギー源の追跡のあいまいさを無くすことができます。電力の源泉が確認可能となれば、カーボン取引やグリーン認証が確実になります。
エネルギーストレージにより需要供給のミスマッチによる不自然な価格を無くす。今日の送電網ではエネルギーは生成と同時に消費しなければなりません。この制約のためにとても非効率なものとなります。たとえば、発電機は需要発生時にすぐに対応できるように、しばしば最適レベルに達しない状態で運転されます。低効率なレベルでの電力プラントの運用はエネルギーコストの上昇と有害物質の排出につながります。出力レベルの変動は運転上問題となり、電力発生設備の保守コストの上昇を招きます。「エネルギーの時間的価値」というものがあります。エネルギーの価値は時間や季節によって大きく変化するのです。エネルギーストレージを使うと、生成と同時に消費しなければならないというエネルギーの制約は取り除かれます。ストレージは商業取引に柔軟性をもたらし、将来の利用に備えてエネルギーを蓄 えることができます。また需給状況やその他の要因により放出時期が選択できます。ストレージはエネルギー価格の変動率を減少します。それにより安定的な市場を構築でき、エネルギーインフラへの新たな投資を促進します。
既存の送電線と接続できるので、新規に送電線を追加せずにグリッドの容量を増加できます。また、段階的に導入することもでき、各種の団体や市や地域は段階的な戦略を立てやすい。開発途上国では各都市に独立した送電網があり、国内の需要の低さから相互には接続されていません。デジタルグリッドのセルは同期させる必要はなく、デジタ ルグリッドルーターはこれら独立した送電網を同期化する必要なく低コストで接続することが可能です。これにより、開発途上国でのエネルギーの利用を促進 し、相互接続により信頼性を向上させることができます。
デジタルグリッドのテクノロジーは一般家庭や商業利用者といったエンドユーザーのレベルまで拡張することができます。デジタルグリッドが採用された家庭を想定してみましょう。デジタルグリッドの電力ラインでは受信側の了承無しに電力は電送されず、電力は電力プロトコルで応答確認が取れないと配電されません。安全性が劇的に向上するのです。家庭内のスマートアプリケーションでは、スマートな電力供給により短絡故障が察知され、電力の切断がナノ秒の単位で行えます。今までのサーキットブレーカーよりはるかに早くなります。つまり火災や事故を安全に回避できるのです。安全性が保障されるので、新たな高電圧家電装置やアプリケーションが利用できます。再生可能エネルギー源からのエネルギーなら、デジタルグリッド対応の家庭において今日では考えられない方法でエネルギーが使われるかも知れません。
高電力によりタンクの無い温水器、高電圧組込み型ドライヤー、瞬時温度変更クッキングレンジなどのアプリケーションが近い将来に可能になるでしょう。もしエネルギーが豊富にあるなら、アプリケーションの発明により新たな世界が開かれます。 インターネットと情報の革命の上に新しい世界が築かれるのです。
実現に向けて
電力網のように広範囲に渡って大規模ににインフラのアーキテクチャを再考する必要がある場合、そのテクノロジーへの挑戦には可能性とともに実現性も証明しなければなりません。この実現性について検討してみましょう。
- それは技術的に実現性があるのでしょうか。つまり、電力網のインフラのように大規模で厳しい環境におかれる場合に、このテクノロジーは商業的に証明されているのでしょうか。
- それは経済的に実現可能でしょうか。つまり、既存のテクノロジーよりも低コストか同等のコストで導入可能でしょうか。
- それは段階的に導入できるのでしょうか。一括変更は必要ないでしょうか。
これらの質問への答えは「イエス」です。その根拠をこれから説明します。けれど、このコンセプトはまったくの初期段階であり、まだまだ開発と実現性の検証が必要です。